その形態は様々。でも、忘れないで。

落ちてしまって困るのは君なのだから

間違っても僕の、機嫌の確認を、




 メ ー ル を 送 信 す る 前 に 、 も っ と ち ゃ ん と 僕 を 見 て    ( 土屋 × 引地 )




恋人だということを隠しているわけではないけれど、ただなんとなく一緒に楽屋を出るのは恥かしい
先に部屋を出て行った君と、君の夫人が待つ有料駐車場まで小走りで向かう
青春ドラマみたいに大きく手を振る人影が見えて、ああきっと君だ、なんてすこし思って萎えた
顔がはっきり見えるくらいまで進んだら、そこで止って、棒になったみたいに立ったまま。

鞄に放り込んだ携帯を探り出して着信記録を眺める
君の番号ばかりが並んでいて、それを見たらやっぱり萎えてしまった


右側ばかり風が当たって、右側ばかりでなく左側まで寒くなってくる
君も携帯を取出していた。親指が大きく動いているのが見えて、それが終わったら、僕を見て薄気味悪く笑う
僕にメールが届いてゆっくり君が僕に近づいてきた

1歩距離が近づくと僕は二歩下がって、瞬く間に倍の距離が僕と君のあいだに出来る



2通目のメールがすぐにきて、それ以上君が僕に近づいてくることがなくなった
三歩前に出てみて、君が動かないことを確認したら、一歩ずつ歩き出す



君は僕の機嫌の確認を忘れてしまっていた
だから、こんな風に寒い中ふたりの距離は遠いまま、目を合わせたまま、棒にならなくちゃいけない
進んでも進んでもすこしずつしか縮まらないのが悔しくて、君でなく、君の夫人めがけて走り出した

萎えてしまった僕の機嫌はしばらく良くなりそうにないけれど、それでも君が許してくれるのならば。

ボンネットに押し倒した君の胸に鼻を擦りつけて、今日の帰り道を予想した
あの道を通れば遠回りになるけれど、美味しいお惣菜屋さんに立ち寄れる
その道を通れば早く家につくのだけれど、大通りの空気は好きになれない

どんな形でもいい、でも、忘れないで。



僕の機嫌ひとつで、君を困られることなんてとても容易い
メールは大通りの空気のように、あまり好きになれないのだから、君が見えているのに、君からメールなんて受け取りたくはないんだ

受信された2通目のメールは見ないで捨ててあげるから、次からは、もっとちゃんと僕を見て。




おわり






-----後-------------

メールを送信する前に、もっとちゃんと僕を見て、
サイトに入る必要性を見出してからいらっしゃって下さい



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